ラヴェルエディション 



モーリス・ラヴェル (1875-1937) は、音楽史上もっとも有名な作曲家の一人。ピアノ独奏曲、室内楽、オーケストラ曲、オペラなど、世界的に知られた作品は、毎シーズン、世界各地で活発に演奏されています。

作家や劇作家の作品と同様、モーリス・ラヴェルの音楽作品も、第一ソース(手稿、ラヴェル本人、近しい協力者、同時代の演奏家などが所有していた楽譜、初版およびそれ以降の出版楽譜の比較研究等)の研究・検証に基づいた新版が必要になっています。

ラヴェルの音楽に思い入れのある高名な音楽学者や演奏家からなる識者集団によって発足した「ラヴェル・エディション」は、ベルギーの XXI Music Publishing ASBL から出版されています。

XXI Music Publishing ASBL は、これまでの版にみられた誤記や誤植などを徹底的に排除した新版を提供することで作曲家にオマージュを捧げ、プロ・アマチュアの音楽家や愛好家の方々に、ラヴェルの名をさらに広げ続けていきたいと願っています。

出版と音楽産業のプロからなる編纂委員会の確かな目と、読譜委員会メンバーを構成する著名な音楽家たちの豊かな経験が生かされた「ラヴェル・エディション」は、音楽学的見地と演奏家側からの視点をかけ合わせた、世界的に権威ある学術版となっています。

2018年11月に発売された第1巻『ボレロ』は、1929年のコンサート版楽譜を改訂したものに加え、1928年のバレエ版オリジナル楽譜を初めて収録し、作品に新たな視線を投げかけました。

2019年1月に行われたジョージ・ベンジャミン指揮アムステルダム・ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏会では、この版が使用されました。これに続いて、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団(K.マケラ指揮)、リヨン国立歌劇場管弦楽団(D.ルスティオーニ指揮)、スペイン国立管弦楽団(J.メナ指揮)、エウスカディコ管弦楽団(R.トレヴィーノ)、バルセロナ交響楽団(J.ヴィセント指揮)も「ラヴェル・エディション」を選んでいます。2019−20年のシーズンでは、パリ管弦楽団(許忠指揮)、レ・シエクル(F.X. ロト指揮)、リエージュ王立フィルハーモニー管弦楽団(G.マダラス指揮)、リール国立管弦楽団(J.ヴィセント指揮)、オスロ・フィルハーモニー管弦楽団(V.ペトレンコ、K.マケラ指揮)などがプログラムに組んでいます。

第2巻(2019年)の『ピアノと管弦楽のための協奏曲(ト長調)』は、シャンゼリゼ管弦楽団、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団、オーヴェルニュ国立管弦楽団、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の委嘱を受けて実現されました。この版による初演は、ハヴィエル・ペリアネス(ピアノ)とジョゼップ・ポンス指揮トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団によって2019年1月10日に行われました。

モデスト・ムソルグスキー『展覧会の絵』の、ラヴェルによる1922年管弦楽用編曲版(第3巻、2019-20年)は現在、オーケストラパート譜のみの校訂作業が進められています。

この改訂版は、レ・シエクル、ラヴェル財団、メルボルン交響楽団、ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団の委嘱で、2019年11月にフランソワ=グザヴィエ・ロト指揮レ・シエクルがパリのフィルハーモニー・ホールのラヴェル・チクルスで演奏するほか、アルモニア・ムンディ・レーベルが録音を行う予定となっています。

指揮者ルイ・ラングレとピアニストのベルトラン・シャマイユの依頼により、『左手のためのピアノ協奏曲』(第4巻)が2020年の出版に向けて準備中です。


ラヴェルエディション 第1巻 ボレロ


フランスの音楽学者・指揮者からなる特別チームによるはじめてのモニュメント版

1928年自筆完全版オーケストラ総譜(ニューヨーク・モルガン・ライブラリー所蔵)に基づく全く初めての研究と、エスキスなどの準備稿(フランス国立図書館、ブリティッシュ・ライブラリー、モナコ文書館所蔵)や初公開のソース(M.ラヴェル、P.コッポラ、A.トスカニーニ、書簡など)を紹介した学術版楽譜。

Maurice Ravel, Bolero,  Ballet Version 1928. Orchestre national du Capitole de Toulouse, Klaus Mäkelä. Toulouse, mai 2018. 


テキスト(仏英): 25ページの序文でモーリス・ラヴェル友の会会長マニュエル・コルネジョが作品の由来と受容を解明

指揮者で音楽学者のアラン・パーリスが《ボレロ》の初期録音各バージョン比較し、録音が読譜にもたらすインパクトを解説

フランス音楽の専門家ジャン・トゥズレ作成の1930年から39年の《ボレロ》録音の完全カタログ

総譜2バージョン 全104ページ 英仏語解説つき : これまでの記譜の誤りを訂正する当エディション作成のもととなった各ソースを、27ページにわたって網羅・解説

初公開写真22枚

120g用紙、24.5 x 34 cm、212ページ豪華装丁版


1928年バレエ版(初出版) 編集:フランソワ・ドリュ、カンタン・アンドレー 

イダ・ルビンシュタイン・バレエ団によるパリ・オペラ座での初演時に使用された、当時のパーカッションパートを含む1928年版楽譜を今回初めて出版。モルガン・ライブラリー所蔵の自筆譜をもとに作成されたこの楽譜では、ラヴェル自身がインクで書き起こした手稿譜に示されている音符と指示(フレーズ、音価など)を忠実に再現しました。


1929年コンサート版 編集:カンタン・ンドレー

ラヴェル自身による指示と、著名指揮者(アルトゥーロ・トスカニーニなど)の訂正およびラヴェル生前に出版された初期の楽譜(複数)をもとに綿密な校正を施しました。作業にあたって、これらの楽譜が提示する諸問題に関して、指揮者ルイ・ラングレーとパスカル・ロフェ、音楽学者アラン・パーリスに解答をもとめました。



ラヴェル・エディション 第2巻 ピアノと管弦楽のための協奏曲(ト長調)

編纂委員会 委員長フランソワ・ドリュ

読譜委員会 : セドリック・ティベルギアン(ピアニスト)、バンジャマン・アタイール(作曲家)、

ルイ・ラングレ(指揮者)、リュドヴィック・モルロ(指揮者)、アドリアン・ぺリュション(指揮者)、

パスカル・ロフェ(指揮者)



Maurice Ravel, Concerto for piano and orchestra. Javier Perianes, piano ; Orchestre national du Capitole de Toulouse, Josep Pons. Toulouse, janvier 2020. 


  • 装丁 24,5x34 cm 272 ページ 豪華装丁版 糸綴じハードカバー 120g 淡象牙色用紙使用 
  • 図版多数:マルグリット・ロン・コレクション所蔵の未公開写真とその他写真、自筆総譜からのファクシミリ、2台ピアノ版校正楽譜ファクシミリ、初版楽譜ファクシミリ(ピエロ・コッポラ、シャルル・ミュンシュ他所有楽譜)
  • 楽譜154ページ
  • 『行者ラヴェルの最後の挑戦』:作品の歴史・受容を解説した音楽学者フランソワ・ポルシルによるイントロダクション・テキスト(2019年)
  • 『作品に入り込む』クレール=マリー・ルゲ(ピアニスト)とルイ・ラングレ(指揮者)によるオリジナルテキスト(2019年)
  • 初演後の『H.プリュニエールの批評』と『M.ラヴェルの返答』『M.ロンの後奏』(1932年)
  • フランスメディアに掲載された初演批評(1932年)
  • 『ピアノと管弦楽のための協奏曲(ト長調)』改訂版。完全版自筆オーケストラ総譜、マルグリット・ロン所有の楽譜、2台ピアノ版の草稿と校正版楽譜、ラヴェル在世当時に出版された楽譜をもとに作成。
  • モーリス・ラヴェルとマルグリット・ロンの演奏注釈を記した2台ピアノ用楽譜(ジャン=パスカル・バンテュスによる2019年新版 第二ピアノパート譜)
  • 2019年改訂版のもととなった全ての資料を網羅した「クリティーク資料集」(40ページ)。
  • これまでの版に見られる問題点、初期の版にある編集エラー、落丁、誤植などをリストアップした「訂正と注釈」(23ページ)
  • 仏英2ヶ国語版

ラヴェルエディション 第3巻 展覧会の絵




ラヴェルによる『展覧会の絵』の管弦楽版については、モデスト・ムソルグスキーの『ピアノのための10の作品』(1874年)の完全なオーケストラ編曲を、1922年にロシアの指揮者セルゲイ・クーセヴィツキーがラヴェルに依頼した(ミハイル・トゥシュマロフが、1891年にリムスキー=コルサコフ校訂のピアノ譜をもとに行ったオーケストラ編曲は不完全でした)経緯や、このラヴェルの編曲が1922年10月19日のクーセヴィツキー・コンサートの一環としてパリのオペラ座で初演された時の状況はよく知られています。反対に、ラヴェルの絢爛かつ創造性にあふれたオーケストレーションの「楽譜の歴史」はあまり知られておらず、今までないがしろにされてきました。

1929年になってやっと、オーケストラ総譜とパート譜が、クーセヴィツキーが創設したロシア音楽出版から印刷・出版されました。この年までラヴェル編曲の『展覧会の絵』の楽譜はどれも手稿状態だったのです。脱稿の日付けとして「1922年5月」と書き込まれたラヴェルの自筆譜には、指揮者が記した青鉛筆での記載や、印刷初版、または1930年10月のボストンでの世界初録音に至るまでの、長年にわたるさまざまな訂正が記されています。98ページのこの自筆譜には、楽器編成の変更、印刷の際に生じた誤植の訂正、ニュアンス、フレージング、さらにはナレーション構成に至るまで、ボストン交響楽団の常任指揮者だったクーセヴィツキーだけでなくラヴェル本人がもたらした変更も書き込まれています。

ロシア音楽出版が楽譜販売を重ねるごとに徐々に変わっていったグラフィックの変遷を見ていくとき、1929年の初版に立ち還る重要性が浮かび上がってきます。と同時に、ラヴェルがオーケストラ編曲を行った当時に出回っていたパート譜にも考えを巡らす必要があります。

以上のことがらをふまえ、2019年新版は、1922年のオーケストラ自筆譜、1874年のムソルグスキーの自筆譜、S. クーセヴィツキー所有の初期印刷楽譜、指揮者で作曲家のガブリエル・ピエルネ所有の1929年版楽譜(ロシア音楽出版による初版楽譜)、さらに、1920年代に出回っていたリムスキー=コルサコフによるピアノ版のさまざまなエディション(ベッセル、ペータース等)をベースに作成されました。

ラヴェル編曲オーケストラ版『展覧会の絵』の校訂新版は、モーリス・ラヴェル財団、レ・シエクル・オーケストラ、ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団、メルボルン交響楽団の委嘱を受けて実現されました。

この新版による演奏は、フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮レ・シエクルがすすめる「ラヴェル・プロジェクト」の一環として、アルモニア・ムンディ・レーベルからリリースされることになっています。


現在、オーケストラ総譜とパート譜のみが購入可能です。クリティーク・エディションは2021年に出版予定となっています。


左手のための協奏曲



ラヴェル・エディション第4巻《左手のための協奏曲》がいよいよ発刊されます。2020年新版は、ピアニストのベルトラン・シャマイユ、ダヴィッド・カドゥシュ両氏を交えたラヴェルプロジェクトの一環として、指揮者ルイ・ラングレとシャンゼリゼ管弦楽団のイニシアチブで実現しました。

この改訂新版楽譜は、モーリス・ラヴェル財団、シャンゼリゼ管弦楽団、ロワール国立管弦楽団、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の委嘱によるものです。


フランソワ・ドリュ監修による改訂版

読譜委員会メンバーは、ベルトラン・シャマイユ(ピアノ)、バンジャマン・アタイール(作曲)、ジョージ・ベンジャミン(作曲)、ルイ・ラングレ(指揮)、リュドヴィク・モルロー(指揮)、パスカル・ロフェ(指揮)。


1937年6月、デュラン出版社はラヴェルの《左手のためのピアノ協奏曲》の総譜とパート譜の初版を法廷納本として納めました(ラヴェルはオーケストラ手稿にインクでよくわかるように強調して「左手『だけ』のための」と書いています)。しかしながら、ニューヨーク市のモーガンライブラリー所蔵の手稿、およびラヴェル自身による2台ピアノ用編曲楽譜(A. Taverne 個人コレクション)には、作曲家の筆跡で「1930年」と明記されています。ウィーンで1932年に行われた波乱万丈の初演の後、出版作業が日の目を見るまでに、不思議にも7年もの歳月を待たねばなりませんでした。この時、不治の脳疾患に冒されていたラヴェルは、人生も残すところ数ヶ月間あまり。作家のコレットの言によるとラヴェルは「この世にすでに暇を乞い、彼の地に生きて」おり、「精神的にどん底にあった最悪の時期」を過ごすことを余儀なくされていたのです。臨床的に復帰不可能とされていたため、ラヴェルは、この傑作の公式の初版作成・印刷作業に携わらなかったか、もし携わっていても大きな距離を置いてしか関われなかったと考えられます。

1932年1月5日に、作曲依頼者であるピアニスト、ポール・ヴィトゲンシュタインによって行われたウィーン初演は、本番で、ヴィトゲンシュタインがラヴェルになんの許可も得ずに恣意的に音符を変更した上、音を間違って弾いたことにラヴェルが激怒したと報道されていますが、それはつまらないジャーナリズム伝説を上回るものでした。コメンテーターたちは、二人の音楽家が仲違いをしたと伝えているものの、二人がその後少なくとも一度、1933年1月17日、パリのサル・プレイエルでのフランス初演で同席していることには触れていません。ラヴェルはこの時、ロジェ・デゾルミエールがリハーサルを担当したパリ交響管弦楽団を指揮しています。この日は《左手のための協奏曲》の歴史において鍵となる重要な日付であるにも関わらず、同年シャルル・ミュンシュの指揮でアルフレッド・コルトーのピアノで演奏されたコンサート(つまりデュラン出版社による出版間もないオーケストラパート譜を使った最初のコンサート)が強調されるあまり、この事実は不思議なことに影に隠れてしまっており、非常に真面目な音楽学研究書でさえ触れられていません。

作品の初演は一体どの版で演奏されたのかという根本的な問題に関して、ヴィトゲンシュタインと彼のウィーンのエージェント、ゲオルグ・クーゲルが1931年に自費でオーケストラ総譜とパート譜を作成したことはほとんど知られていません。この楽譜は非公式なもので法廷納本されませんでしたが(ラヴェルは1929年にデュラン社と独占契約を交わしています)、デュラン社が初版を作成し、作品依頼者の独占権が終結するまで、長年にわたって様々なオーケストラの間を転々と渡っていたのです。赤い表紙の八折り判87ページのこの「手稿からの写本」楽譜は、現在でも数部が残っています。大英図書館にあるもの、そしてとくに重要なのは、パリの音楽博物館(パリ・フィルハーモニー)所蔵の、ロジェ・デゾルミエールの手による注意書きが入ったものです。

ラヴェルの手稿に基づいたこの最初の版は、デゾルミエールが大切に保管していたもので、ドイツ人のコピー職人(ゴシック風の文字や、フランス語とドイツ語の略号が奇妙に混ざった記載が見られます)による手書き清書譜をもとに印刷されています。ここには、音符の間違いの訂正の他に、アゴーギグやフレージングの変更などに、貴重な指示がなされているのがわかります。アービー・オーレンシュタインが1930年と鑑定した校正稿には、作曲家自身と、忠実な友であったリュシアン・ガルバンによる訂正が加えられており、オリジナル譜に貴重な光を当てています。

ラヴェルの作品の遺産として、感動的でユニークな事実があります。1933年1月17日のパリ初演の様子は多くの記事によって伝えられていますが、その他に、1分50秒の音源つき映像が残っているのです。これはニュース映画「アクテュアリテ・パテ」のために撮影されたもので、サル・プレイエルでのリハーサル風景を収めており、箱のインタータイトルには、「左手だけのための協奏曲」と記載されています。この映像では、初演アーティストがピアノパートに奇妙な変更をもたらしていること(ブルーノ・ワルターの指揮で1936年にアムステルダムで行われたラジオ録音でもこの変更が認められます)や、デゾルミエールが指揮していたこのリハーサル時でのオーケストラの規模や配置を確認することができます。作曲家アルフレッド・ブリュノーが残したコメントによると、ラヴェルはコンサートでだけ、「〔本番で〕指揮棒が彼に回ってきたときに、いつもの落ち着きで」指揮台から指示をしたということです。 文:フランソワ・ドリュ、2020年7月。著者の許可なく全文、一部を複製することを禁じる。


現在、オーケストラ総譜およびパート譜のみ発売。コンタクト: sales@21-music.be. クリティーク版製本譜は2021年に発売予定。


Using Format